大丈夫だとは思いますが」「ちょっとだけでも、顔を見てはいかんですか」「集中治療室の窓越しに様子を見るだけなら結構ですよ。ただ、少しショックを受けられるかもしれませんがね。チューブで機械につながれてるみたいに見えるから」 医師の言うとおりだった。真智子は白いベッドの中央にぺたりと横たわり、青白い光のなかで、様々な機械に囲まれていた。中年太りだと、本人も気にしていたはずの太りじしの身体が、しぼんだように小さくなって、ほとんど実体がないみたいに見えた。 真智子でないように見えた。いや本当に、真智子ではなくなってしまったのかもしれなかった。(お父さん、鞠子が帰ってきた!) あのときの、完全に現実離れした陽気な声。魂が裏返り、裏地が破けた──そんな声だった。「ともかく、命が助かってよかった」と、坂木が呟いた。義男は集中治療室の窓に手をあてて、ただ真智子の横顔を見つめていた。 これから先のことは、すべて俺ひとりの肩にかかってくる──鞠子の身に起こったことを知り、真智子を守り、それをすべて俺が背負っていかなければならない── 独りだった。有馬義男は途方もない孤独のなかにいた。しかも、それはまだ始まったばかりだった。[#改ページ] 5 センセーショナルな事件でも、発生後の展開がスピードを欠くと、報道というものの広大な斜面を滑走することができず、途中で止まってしまうことがよくある。最初の飛び出しの勢いがよければ、ある程度は惰性で滑り続けることもできるが、それも数日単位の話だ。大川公園のバラバラ死体遺棄事件は、その典型だった。 九月十二日の発生から、十三、十四、十五日と経過しても、事件そのものには大きな発見も動きもなかった。従って、報道もどんどん下火になっていった。それでもワイドショウなどでは、例の電話の主の人物像を推理したり、テープを音響分析にかけた結果を報道したりして間《ま》を持たせていたが、週を越えたあたりでさすがにそれもなくなり、世間の話題は別のところに移っていった。 前畑滋子が、東中野署の坂木達夫をようやく捕まえることができたのは、事件から五日後、九月十七日の午後のことだった。生活安全課に電話してみると、坂木が電話口に出たのである。すぐに、滋子と会えると言った。 ふたりは、それまでにも何度か待ち合わせに使ったことのある新宿の喫茶店で落ち合った,オークリー フロッグスキン。勇躍という感じで出かけてきた滋子は、約束の時刻より二十分も前に着いてしまい、コーヒーを飲みながらあらためてリストやルポの原稿を読み直しているところに、坂木がやって来た。「ずっとご連絡してたんです」 文句を言うつもりはなかったのだけれど、坂木が向かいの席に腰をおろすと、滋子はやっぱりそう言った。言ってしまってから、坂木がひどく疲れたような、憔悴《しょうすい》した顔をしていることに気がついた。「すみません。古川鞠子さんのことでお忙しかったんでしょうね」 坂木は黙ったまま背広の内ポケットから煙草を取り出し、注文を取りにきたウエイトレスに、機械的に「コーヒー」と言った。だが、ウエイトレスが奥のカウンターの方に戻りかけると、あわてて、「いや、ホットミルクにしてください」と言い直した。 胃をやられてるんだなと、滋子は思った。「電話をもらっていたことは知ってました。何度か訪ねて来てもくれてたんですね。申し訳ないことをした」と、坂木は切り出した,オークリー サングラス 激安。「私の方も、前畑さんにお会いして、二、三確認しておきたいこともあったんですよ。ただ、ここんところはどうにも動きがとれなくて」「私の方はちっとも構いません」と、滋子は言った。「ただ、すごくびっくりしてますよ,オークリー メガネ。坂木さんは、わたしが書きかけていたルポのことは覚えていらっしゃいますよね?」 坂木は重くうなずいた。「もちろん」「古川鞠子さんについての情報は、坂木さんが教えてくださったものでした」「そうでしたね……」「実はわたし、あのあと、ちょっと身体を壊したり身辺がゴタゴタしたりして、ルポの方は止まったままなんです」「そう」と、坂木は顔をあげ、ちょっと目をしばしばさせた。--------------------------
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